2018.03.19
「ニューミュンヘン」と「デザイン」
東の銀座ライオン、西のニューミュンヘン。
そう称される老舗のファサードデザインをさせて頂きました。
場所は大阪梅田・曽根崎お初天神通り。ニューミュンヘン発祥の地です。
すぐ近くには、惜しまれつつも今年1月に約60年の歴史に幕を下ろした本店がありました。
幅広い層から愛され続ける西のビアホール代表。
コアなファンがたくさんいらっしゃいます。
場所的にも、工事中はそんな方々から色々とお声がけを頂きました。
今回ほどデザインとは何なのかと感じた事はありません。
世の中にはデザインしなくて良い空間がたくさんあります。
変えてはならない空間があります。
時を経た美しさに勝る模倣は存在しません。
しかし、建築(空間)はいつしか必ず寿命を迎えます。
そのような物件の設計依頼を頂いた時に、どうデザインすれば良いのか・・・
今回はファサードデザインだけでしたが、少し答えを導き出せたと感じています。
“モノを大切にする心。より良いモノに進化させる挑戦。”
答え合わせは、いつかその全てをデザインする時にさせてください。
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA
2017.04.24
昭和が見ていたレトロ・モダン
「昭和レトロをコンセプトにデザインしてほしい。」
クライアントからの要望です。
昔の雰囲気をデザインする事は本当に難しい。
形や見た目は再現出来ても、一番大切なコトが表現出来ないと思うのです。
アミューズメントパークを想像して頂ければわかりやすいと思いますが、
娯楽施設としては成り立っても、本物の食を提供する空間としては、
きっとクライアントが想像するものとは違ってくると思います。
一般的に想像される「昭和レトロ」をデザインし、パースや模型にしてプレゼンテーションすれば
おそらくOKはもらえるでしょう。
しかし、竣工したら「何か違う」と感じてしまうと思います。
僕はこういった依頼の場合、極力イミテーションを排除します。
模倣ではなく、抽象化したデザインにするか、本物のアンティークを使います。
白と黒、木と金物、男と女。
相反するモノは使い方さえ間違わなければ、とても美しいモノを生み出します。
ただ、立地は外国です。
もっとわかりやすいデザインの方が良いのではないか?
プレゼンテーションの前に自分の中で葛藤がありました。
でも、僕はこの空間で働く「ヤツ」の事を良く知っています。
僕らは昭和生まれですが、「あの頃」を感じながら生きてきた訳ではありません。
でも、今よりずっと自由だったし、たいていの事は許されていたと感じます。
その頃の活気や、今とらわれすぎている常識を、軽く超えてくれる男だと思っています。
そんなヤツが表現する「昭和レトロ」は、異国であっても模倣であるべきじゃない。
「昭和が見ていたレトロ・モダン」
あの頃の人が見ていた、そして、その想像を超えた空間が出来るのを楽しみにしています。
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA
2013.03.18
hair room Raf -光のディテール-
去年着工した美容室の竣工が近づいてきました。
この店舗を設計するにあたりクライアントの一番の要望は、
軒が深く片面が大きい象徴的な切妻屋根だった。
建築地は住宅街。
人通りも少なく夜になれば真っ暗になるこの場所は店舗をするにあたり、
集客面では立地が良いとは言えず負の条件ばかりが目立つが、
逆に美しいモノを造れば、繁華街の中の1店舗に比べ何倍もの視認性が得られるのではないか。
建築そのものが広告塔となり新規顧客を掴む事を考えた。
この住宅街の灯りは、基本的に各住宅の窓からの灯りと数本の街灯で構成されている。
多くの店舗の様に強弱をつけた外部からの照明当て込みはこの環境に対し乱雑で、
敢えて外部から建築物を照らす照明は設けず、店内の灯りを外へ溢れ出す計画とした。
その面積を大きくする事により店舗の存在を認知させると共に、
真っ暗な町をやさしく照らす”道行灯”の役割を担い、環境に調和させている。
軒が深い建築デザインは、正面が暗がりで影が出来る。
そこで屋根と切り離した壁に、天井へ向けてアッパー照明を仕込み、
空間を柔らかく包み込むと同時に、その開口部から白天井のリフレクションで外へ溢れ出す。
これが軒の影を消し、屋根を浮かび上がらせ、その浮遊感が幻想的な演出となっている。
クライアントからの一番の要望である「軒が深く片面が大きい象徴的な切妻屋根」は
この照明計画にとってこの上ない提案であった。
これは軒先の断面。
先ずアッパー照明の設置は、カットオフが出ないよう照明の球を少し壁のラインより上げる。
もちろん球が見えるのは良くないので、人のアイレベルからの目線の角度と照明を仕込む壁の出隅のライン、
ガラスの映り込みを検証する。
次に軒裏の角度を軒先は緩やかにする事により、光のリフレクション効果を外壁上部に集め
光だまが強くなり、より一層、屋根の浮遊感を増す。
また、この軒先の形状は外部地面へ届く光の範囲を広げる効果も併せ持っている。
照明に限らず、この店舗設計には数々のディテールをちりばめている。
プレゼンの段階でそれを伝え、理解して頂く事は非常に難しい。
インテリアデザイナーとして、クライアントの想いをカタチにする事は当然として、
このディテール一つ一つの積み重ねで出来る空気感は、ある意味クライアントから委ねられた
設計者にとって一番大切な事ではないかと思うのです。
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA
2012.11.05
交野市美容室
クライアントと初めてお会いしたのは、ちょうど1年ほど前です。
今回は建築からの案件ですが、我々インテリアデザイナーにとって初回打合せから着工まで1年は稀にみる長さです。
建物としても木造平屋なので、商業空間としては建築家からしても長く感じるのではないでしょうか。
デザイナーといえば、周りからみると華やかな職業に思われるかもしれません。
しかし、「ここが丸、三角、四角・・・」などデザインしている時間は仕事の1割ほどかもしれません。
この物件はまさにそれを証明するかのように、デザイン以外の部分で多くの壁がありました。
インテリアデザインはアートではありません。
完成された空間には人ありきで、それまでの過程でも多くの人が関わる以上、
デザイナーである前に一人の社会人であることが必要です。
デザインについて。
住宅街に造られるこの建物は、デザイナーと呼ばれる人が設計をすればどんなデザインでも目立つだろう。
美容室は、「ステータスの提供」の場である。
自分を磨く事を目的とした需要者にとって、その空間は常に時代の最先端であるべきかもしれない。
しかし、交野という街に耳を傾けてみる。
昔から足を運んで頂いている方々が、今までと同じようにリラックスでき、
且つ、普遍の中に新しさを感じられる。
今、交野という街に馴染んでなくてはならない。
且つ、数十年後、色褪せてはいけない。
都会に憧れる地元の若者が、踏みとどまるように、
自慢の場所になるように。
その一つ一つの積み重ねが、交野の未来に繋がるように。
ココから始まったと言われるように。
交野市だからこそ出来るデザイン。
今、交野市でするべきデザイン。
そういった意味で、竣工後の世間の評価が楽しみなのです。
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA
2012.10.16
木材について
福岡へ出張に行って来ました。
とは言っても、クライアントとの打合せや現場ではありません。
案件で使用予定の木材(無垢)のチェックです。
僕は自然素材を空間で使用する際、なるべく信頼のおける
メーカー担当者に探してもらい、自分の目で確認するようにしています。
人工的素材も、メーカーや各専門工場により違いはありますが、
生きている素材は、金額優先で施工会社任せにしてはいけないと考えています。
木が時と共に重ねてきた年輪の表情は、どれ一つ同じモノがありません。
特に、今回探していたのは“ひび”の入った木材です。
人工的に“ひび”を入れる事も可能ですが、
自然の流れのまま出来たものより美しくなることはないし、
人工的に自然を表現したい場合は、一概には言えませんが
ある程度抽象的にデザインするのが良いと思います。
施工会社は嫌がりますが、自然素材には素材の精度より素材の生きた形を求めます。
今回苦労したのは、基本的に“ひび”の入った木材は不良品のため、
“ひび”を避けて細かく加工して保存している材木屋が多く、
ある程度広い幅で、数量を持っている所が少なかった事です。
とは言え、思っていた通りの木材が見つかったので福岡まで伺った甲斐がありました。
・・・しかし、出張費がキツいですね。。。笑
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA