hair room Raf -光のディテール-
去年着工した美容室の竣工が近づいてきました。
この店舗を設計するにあたりクライアントの一番の要望は、
軒が深く片面が大きい象徴的な切妻屋根だった。
建築地は住宅街。
人通りも少なく夜になれば真っ暗になるこの場所は店舗をするにあたり、
集客面では立地が良いとは言えず負の条件ばかりが目立つが、
逆に美しいモノを造れば、繁華街の中の1店舗に比べ何倍もの視認性が得られるのではないか。
建築そのものが広告塔となり新規顧客を掴む事を考えた。
この住宅街の灯りは、基本的に各住宅の窓からの灯りと数本の街灯で構成されている。
多くの店舗の様に強弱をつけた外部からの照明当て込みはこの環境に対し乱雑で、
敢えて外部から建築物を照らす照明は設けず、店内の灯りを外へ溢れ出す計画とした。
その面積を大きくする事により店舗の存在を認知させると共に、
真っ暗な町をやさしく照らす”道行灯”の役割を担い、環境に調和させている。
軒が深い建築デザインは、正面が暗がりで影が出来る。
そこで屋根と切り離した壁に、天井へ向けてアッパー照明を仕込み、
空間を柔らかく包み込むと同時に、その開口部から白天井のリフレクションで外へ溢れ出す。
これが軒の影を消し、屋根を浮かび上がらせ、その浮遊感が幻想的な演出となっている。
クライアントからの一番の要望である「軒が深く片面が大きい象徴的な切妻屋根」は
この照明計画にとってこの上ない提案であった。
これは軒先の断面。
先ずアッパー照明の設置は、カットオフが出ないよう照明の球を少し壁のラインより上げる。
もちろん球が見えるのは良くないので、人のアイレベルからの目線の角度と照明を仕込む壁の出隅のライン、
ガラスの映り込みを検証する。
次に軒裏の角度を軒先は緩やかにする事により、光のリフレクション効果を外壁上部に集め
光だまが強くなり、より一層、屋根の浮遊感を増す。
また、この軒先の形状は外部地面へ届く光の範囲を広げる効果も併せ持っている。
照明に限らず、この店舗設計には数々のディテールをちりばめている。
プレゼンの段階でそれを伝え、理解して頂く事は非常に難しい。
インテリアデザイナーとして、クライアントの想いをカタチにする事は当然として、
このディテール一つ一つの積み重ねで出来る空気感は、ある意味クライアントから委ねられた
設計者にとって一番大切な事ではないかと思うのです。
西山 徹 / Tohru NISHIYAMA